Koji Shiroshita 城下浩伺

空間へのドローイング:大山崎(クセがあるアワード:塗 ファイナリスト作品展)

2025.10.19 - 11.3

マクセル クセがあるスタジオ

京都府乙訓郡大山崎町の空間を支持体として制作した「空間へのドローイング:大山崎」が「マクセル クセがあるアワード:塗」にてマクセル賞を受賞し、ファイナリスト展が開催された。
展示に向けて、大山崎各所でフィールドドローイングとテクスチャ採取を行い、〈クセがあるスタジオ〉〈天王山登り口〉〈山崎院跡〉〈瓦窯跡公園〉〈阪急電鉄高架下〉の5作品を制作した。
会場である「クセがあるスタジオ」では、Apple Vision Pro を用いて空間に現れるドローイングを鑑賞できる他、iPadを使って AR作品を体験できるように構成した。
 
クセがあるアワード:塗 ファイナリスト作品展(オフィシャルサイト)

空間へのドローイング:大山崎

「空間へのドローイング」は、VR機器をメディウムとして扱い、空間そのものを支持体として描くドローイングのプロジェクトである。本作では、大山崎の複数の場所にてフィールドドローイングとテクスチャ、環境音の採取を行い、作品を完成させた。

大山崎は古くから交通の要所として栄え、現在も町のどこにいても鉄道の存在を感じることができる。一方で、近代、鉄道や道路によって町が分断されたことで、地図上では実態のつかめない生活のための道が多く残り、それらがこの町特有の風景を形作っている。路地裏を歩くと、現代のインフラと古い景観が交差する、思いがけない空間に出会うことがある。

1582年の山崎の戦い、1864年の禁門の変で知られる天王山登り口では、山の入り口と鉄道が交差する地点でフィールドドローイングを行った。ここには、植物や石の自然の質感と、踏切の警告色が共存している。

奈良時代初頭に高僧・行基が創建したと伝わる山崎院跡では、絵画の起源となった壁画が持つ強い空間性に着目した。1999年の発掘で出土し、大山崎町歴史資料館に収蔵されている壁画片の復元図に強く惹かれ、手描きで模写したイメージをフィールドドローイングにマチエールとして重ね合わせている。

大山崎町歴史資料館横の脇道を進むと、阪急電鉄高架下に工事用フェンスが形作る細い通路が現れ、橋脚には社名入りの工程メモが書き込まれている。それはまるでグラフィティのようにも見え、大山崎の生活空間のもう一つの側面を示している。

平安京造営のための瓦を焼いた遺跡である大山崎瓦窯跡では、発掘で見つかった5号窯が実物大の陶板写真として地面に再現されている。この陶板写真を撮影した画像をAIで解析し、そのマチエールを再現してドローイングのテクスチャとして取り入れた。また、あずまやの屋根に使われている復元瓦の文様や質感も作品に取り込んでいる。

展示場所であるクセがあるスタジオでは、スタジオ内外で採取したテクスチャや環境音に加え、まだ現実には存在しない「未来のメディウム」をドローイングのマチエールとして重ね合わせることで、過去・現在・未来が干渉し合う複層的な絵画空間を構築した。これは、クセがあるスタジオを運営するマクセル株式会社が持つ「アナログコア技術」に着目し、AIに「100年後にマクセルが開発する新素材」を構想させたものである。

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